会長/写真

日本TIP建築協会会長
東京工芸大学名誉教授

上西 秀夫



丈夫な住まいを造るために
〜 建て主のための建築構造学 〜

 以前、どこかのテレビ局の健康講座で、成人病の原因として一般にいわれている「肥満」「運動不足」「ストレス」等のほかに「無知」がその原因のひとつであると指摘された先生がいました。「無知」と聞いた時、私の脳裏にはすぐに「ちえのないこと、おろかなこと」という意味が浮かんできたので、視聴者に向かって随分思い切ったことを言う先生だと驚いたことがあります。最近、そのときのことを思い出し、改めて広辞苑で調べたところ、広辞苑にはもう一つの意味として「知らないこと」とありました。そこであの時、健康講座の先生が言われた無知とは「知らないこと」を指していたのだと気がつき、なるほどと  改めて納得することができました。

 「自分の健康は自分で守れ」といわれる時代、ある年齢に達したら生活習慣病(成人病)にかからないためには、予防のための正しい知識とその知識に沿った生活習慣の実践が求められます。しかし、それにもかかわらず多くの人が大切なことを「知らない」ためにかかってしまうのが生活習慣病の特徴だと思います。

 人体と住宅では質が異なりますが、住宅の健康すなわち丈夫さについては、人の健康と同じ様なことが言えるのではないでしょうか。住宅の丈夫さは生まれるときが問題で、それだけに丈夫さの根元である構造に関して、建て主が正しい知識を持っているか否かで明暗が分れます。構造についての正しい知識を持ち、その知識を活かして実践すれば、おのずと丈夫に生まれる筈の住宅が、大切なことを「知らない」ために虚弱体質に生まれ、一旦ことあればたちまち傷つき倒れ、天命を全うしないままに世を去って行くということは少なくありません。またこの様な場合は、往々にして、その中で暮らしている人を道連れにします。阪神大震災で死者6433人のうち、木造住宅の倒壊で約5000人もの人が亡くなられたという事実はその一例だと思います。

 私は東京工芸大学で、昭和57年度から平成8年度までの15年間、木造住宅の耐震性能の向上をテーマとして数多くの実験をしましたが、その間いつも「構造力学の原理の活用」と「実用化の可能性」を追求してまいりました。その結果、ほんの僅かな費用を追加するだけで耐震性が著しく向上する「TIP構法」の開発に成功しました。また、平成5年1月には日本TIP建築協会を設立して、志を同じくする工務店の方々とこの構法の普及に努めてまいりました。

 阪神大震災では兵庫県西宮市のTIP構法住宅が、周囲の住宅が全壊・半壊のなかで、トイレのタイルが1枚浮き上がっただけということで、TIP構法の丈夫さが多くのマスコミで報道されました。最近になって、東海地震はもとより、東南海地震、南海地震の不安が取り沙汰されるようになったので、この際TIP構法をできるだけ多くの方に知っていただこうと、「ホームページ」を立ち上げることにしました。ホームページの中で、以前、私が東京工芸大学の構造実験室で卒研生と一緒に行った実験の内容など、TIP構法の丈夫さの根拠についてもわかりやすく紹介して行くつもりです。これから住宅をお建てになる方は是非ご覧下さい。「丈夫な住まい」を造るために、きっと参考になることと思います。




第23 吸収エネルギー その3
 
1. 45×90 筋かいと下地板を併用した耐震壁の吸収エネルギー
 
 45×90 筋かいと下地板を併用した耐震壁の吸収エネルギーを公庫仕様とTIP仕様で比較します。この比較の対象となる試験体はこちら、荷重変位曲線はこちらをクリックしてください。
図1は公庫仕様とTIP仕様の2本の荷重変位曲線から、それぞれの吸収エネルギーを計算して作成した棒グラフです。この棒グラフをみると、すべての変位で、右側のほうが左側の1.4 倍以上となり、TIP仕様は公庫仕様よりかなり粘り強いことが分かります。
図1
図1
 
2. 90×90 筋かい入り耐震壁の吸収エネルギー
 
 一般的に使用される45×90 筋かいに対し、一回り丈夫な90×90 筋かいを入れた耐震壁の吸収エネルギーを公庫仕様とTIP仕様で比較します。この比較の対象となる試験体についてはこちらを、荷重変位曲線はこちらをクリックしてください。
図2 は公庫仕様とTIP仕様の2 本の荷重変位曲線から、それぞれの吸収エネルギーを計算して作成した棒グラフです。この棒グラフをみると、右側のほうは変位25 mmの1.3倍から変位200 mmの1.6 倍まで、変位の増加に伴って倍率も増えているので、TIP仕様のほうが公庫仕様より粘り強いことが分かります。
図2
図2
 
3. 標準タイプ実大試験体の吸収エネルギー
 
 公庫仕様とTIP仕様の吸収エネルギー比較の最後に、標準タイプの実大試験体の吸収エネルギーを公庫仕様とTIP仕様で比較してみましょう。標準タイプとは、柱の断面を10.5 cm角、筋かいの断面を45×90 とした、一般的なものです。この比較の対象となる試験体についてはこちらを、荷重変位曲線はこちらをクリックしてください。
図3は同じ規模で作成した実大試験体の荷重変位曲線から、それぞれの吸収エネルギーを計算して作成した棒グラフです。この棒グラフをみると、すべての変位で、右側のグラフが左側より大きく、T I P 仕様の吸収エネルギーのほうが公庫仕様のそれよりかなり大きいことが分かります。因みに、TIP仕様と公庫仕様の比率は、変位の小さい順に1.8 倍、2.0 倍、2.2 倍、2.3 倍、2.4 倍と変位の増加に伴って大きくなっています。
図3
図3

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バックナンバー
● はじめに ●
第1回
「いい家」の条件
第2回
接合部設計
第3回
構造と構法
第4回
躯体工事費について
第5回
スーパーTIP構法とは
第6回
構造設計について
第7回
新説「コロンブスの卵」
第8回
実験の基本方針
第9回
水平荷重対応型軸組
第10回
ガセットプレ−ト
第11回
筋かいについて
第12回
筋かい端部の隙間について
第13回
下地板斜め張り耐震壁と構造用合板張り耐震壁の比較
第14回
NHKスペシャル阪神大震災シリーズ(第5回)を見て(その1)
第15回
NHKスペシャル阪神大震災シリーズ(第5回)を見て(その2)
第16回
NHKスペシャル阪神大震災シリーズ(第5回)を見て(その3)
第17回
ホールダウン金物(引き寄せ金物)の効果
第18回
TIP構法の模型実験(その1)
第19回
TIP構法の模型実験(その2)
第20回
TIP構法の模型実験(その3)
第21回
吸収エネルギー その1
第22回
吸収エネルギー その2

 

 

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