前回は45×90筋かいを用い、通常の試験体(クリアランスなし)と端部にクリアランスを設けた試験体の水平加力試験を行って、クリアランスの効果を調べました。その結果、クリアランスを設けた試験体は通常のものに対して10%ほどの荷重低下が認められました。今回は筋かいの断面積が2倍の90角筋かいの水平加力試験を行い、クリアランスの効果を検討することにしました。
図1は試験体立面図で、上段はクリアランスが無い場合、下段は30oのクリアランスを設けた試験体です。また、左側は筋かいに圧縮力が掛かるパターンで、右側は筋かいに引張力が掛かるパターンです。ただし、前回同様どちらもTIP仕様です。 |
|
| |
| また、図2はクリアランスが無い場合の接合部詳細図で、図3はクリアランスを設けた場合の接合部詳細図です。2種類2パターンの試験体に水平荷重をかけて荷重変位曲線を作成しました。ただし、平均値の荷重変位曲線は圧縮パターンと引張パターンの荷重変位曲線のデータを平均して作成したものです。 |
|
| |
| 図4は筋かいに圧縮力が作用した場合の荷重変位曲線で、両者は殆ど揃っています。また、図5は筋かいに引張力が作用する場合です。終始クリアランス有りのほうがクリアランス無しを上回っています。図6は圧縮と引張の平均値が作用する場合の荷重変位曲線で、引張の場合の影響で僅かながら、クリアランス有りのほうがクリアランス無しを終始上回っています。 |
|
| |
| 表1は平均値の荷重変位曲線から作成した所定変形時荷重の表です。変位50mmでは6%、変位100mmと変位150mmでは7%とクリアランス有りのほうがクリアランス無しを上回っていることが分かりました。 |
|
| |
45×90筋かいの場合は、筋かいに大きな圧縮力が作用すると筋かい材そのものが座屈するのに対して、90角筋かいの場合は剛性が大きいため座屈もせず、そのためクリアランスの効果が表れたのではないでしょうか。
引き続き45×105や45×120という断面の筋かいについても実験を進めていきますが、今後の実験についてもすべての筋かいにクリアランスを設けることにしました。そのことで筋かいの負の側面というべき桁・胴差など横架材の突き上げや柱の引き抜きを防ぐことができるものと思います。
なお参考までに、平成11年8月に発行された雑誌「工務店経営」の中の「TIPニュース」で前山美登里氏(暮らしのデザイン研究所代表)が物理学者の田中栄氏(私が実験に専念していた時期の東京工芸大学学長)にインタビューしたときのQ&Aをご紹介します。
前山――これまで電気通信大学と、東京工芸大学の学長を歴任されてきたわけですが、東京工芸大学の学長時代に、今の日本TIP建築協会の上西会長(東京工芸大学名誉教授)が、木造の耐震強度を高めるTIP構法を研究されていたわけですね。
田中――ええ。それで私は上西さんをふたつの点で非常に評価しているんです。ひとつには構造力学でいえば、RC造より木造のほうが難しいんですね。下地板を斜め張りにすれば強度が増す、というところまで考えつく人はそれまでにもいたわけです。上西さんの研究者としてのカンが優れているのは、筋かいを浮き上がらせ(クリアランス)、三角形のガセットプレートで固定する、ということを考案したことなんです。
前山――TIP構法というと斜めの下地板ばかり目立つので、簡単に真似できると思っている業者がいるんですが、専門家の目で見れば実は、最大のポイントは筋かいのクリアランスと三角のガセットプレートにあるわけですね。
田中――ところがこれは理論で実証することが非常に難しい。それを上西さんが実験的に実証されたということを評価しています。
前山――私が住宅誌の取材で東京工芸大学に上西先生を訪ねた時も、その理論のすばらしさもさることながら、冷暖房のない実験棟で学生さんといっしょに日夜実験をくりかえされたということに頭が下がる思いでした。
田中――私がもうひとつ評価しているのは、上西さんがTIP建築協会という組織をつくった点です。そこにはひとつのベンチャー的要素があるんですね。ベンチャーそのものではないけれど。
前山――こういう言い方が妥当かわかりませんが、大学での研究成果を世に広めるために、研究者が野に下って自ら組織を運営している点でも、おそらく他に類を見ないでしょうね。今日はいろいろと有意義なお話をありがとうございました。 |