地震・災害に強い木造住宅「TIP構法」日本TIP建築協会

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『会長からのメッセージ』(7) 下地板斜め張り耐震壁と構造用合板張り耐震壁の比較

  • 2013年09月06日

この文章は以前会長からのメッセージとしてホームページに載せていたものです。(2005年)  お問い合わせが多いものを抜粋して再度掲載しました。


木造軸組構法による住宅の耐震壁を構成する耐震要素は、昭和25年の建築基準法制定以来「筋かい」・「下地板」・「筋かいおよび下地板の併用」が主流でした。同じ建築基準法の施行令では、耐震壁の耐震レベルを倍率(壁倍率ともいう)で規定していますが、現在の施行令によれば「45×90筋かい」の倍率は2.0「下地板」の倍率は0.5で、これらを併用した場合は、それぞれの倍率を合計した値2.5をその倍率としてよいことになっています。

これら通常のものに対して、構造用合板等板状の材料(以下面材という)を軸組の側面に張りつけたものが、昭和56年建設省告示第1100号で耐震壁として認められ、面材ごとにその留めつけ方(くぎの種類およびくぎの間隔)を遵守することを前提に倍率が定められました。告示によれば構造用合板(厚5mm以上)の倍率は2.5、硬質木片セメント板の倍率は2.0その他の面材についてはそれぞれ、告示または日本建築センターの評定により倍率が定められています。

TIP構法は前者の「筋かい」と「下地板」を耐震要素として耐震壁を構成していますが、その使い方には構造力学的な工夫を加えています。工夫の一つは柱と横架材の交点をガセットプレートで接合することで、もう一つは下地板を斜め45°に張ることです。軸組の仕口にガセットプレートを用いるとことと下地板を斜め45°に張ることにより、耐震性能が著しく向上することが実験室で確かめられ、また兵庫県南部地震の災害地でも、TIP構法の優れた耐震性能が実証されました。

しかしながら、下地板を一枚一枚張るのは面倒だし、また、構造用合板を張ればそれだけで倍率2.5がとれるから、筋かいや下地板を使わずに合板を張って済ませてしまいたいと考える人が増えているのが実情です。そこで、TIP構法の下地板張り耐震壁(以下下地板斜め張り)と構造用合板張り耐震壁(以下構造用合板張り)の耐震性能を比較して見ました。

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図1
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図2
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図3
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図4

 図1は厚さ11mm幅80mmの杉板を斜め45°にN50Fくぎで打ち付けた試験体「下地板斜め張り」で、左側は下地板に圧縮力が作用する場合、右側は下地板に引張力が作用する場合です。図2は厚さ9mmの構造用合板を柱・間柱・土台・桁および胴つなぎにN50Fくぎ約15cm間隔で打ち付けた試験体「構造用合板張り」です。

図3は「下地板斜め張り」と「構造用合板張り」の荷重変形曲線です。但し下地板斜め張りについては下地板に圧縮力が作用する場合と引張力が作用する場合の平均値の荷重変形曲線です。この図から、変位の少ない範囲では下地板斜め張りの耐力は構造用合板張りの耐力の50~60%と小さいことが判ります。しかし、構造用合板張りは変位95mmで最高1314kgを記録した後、耐力の低下が始まり変位200mmでは455kgと最高値の約1/3に低下します。これに対して、下地板斜め張りは変位100mmを過ぎても耐力は上昇し続け変位205mmで最高1244kgに達します。このことから、下地板斜め張りは構造用合板に較べて初期剛性(変位が小さい時の耐力のことで、変形のしにくさを表す)は小さいが、粘り強さにおいてはきわめて優れているということが判ります。また、強度を示す最大荷重については、下地板斜め張りは1244kgで構造用合板張りの1314kgの95%にも達し、施行令と告示で定めた倍率で下地板は構造用合板の1/5と極めて低い評価であるにもかかわらず、かなり高い値を示しています。

図4は硬質木片セメント板、高耐力シージングボードおよび構造用合板を張った耐震壁の荷重変形曲線です。構造用合板は2種類で、前出のくぎ間隔約15cmのものが構造用合板(1)、くぎ間隔を約10cmにしたものが構造用合板(2)です。この図から判るように面材を張った耐震壁はいずれも変形の初期に高い耐力を示しますが、変位100mm前後を境に著しい耐力低下が始まります。この事から、面材を張った耐震壁は一般に「粘り強さ」に欠けるということがわかります。

地震に強い住宅を造るには、丈夫な耐震壁をバランスよく配置することが大切ですが、丈夫な耐震壁は「剛性」が大きく「強度」が高いことだけでは充分ではありません。剛性と強度のほかに「粘り強さ」の大きいことが住宅の倒壊を防ぐために欠くことのできない重要な条件であるということを肝に銘じておかなければなりません。

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