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『会長からのメッセージ』(3) 構造設計について

  • 2013年08月21日

この文章は以前『会長からのメッセージ』としてホームページに載せていたものです。(2002年11月)  お問い合わせが多いものを抜粋して再度掲載しました。

 家造りで最も大切なことは前に述べた通り、大地震でも決して倒壊しない丈夫な構造にすることですが、そのためには、「構造設計」が適切に行われることが必要です。そこで構造設計についてご説明します。

 一般に鉄筋コンクリート造等木造以外の建物を造る場合は、平面図・立面図・仕上表などをもとに「構造計算」を行います。計算の内容をまとめて構造計算書を作成する一方、計算した結果を「構造図」にあらわします。厳密にいうと、その前にしなければならないことがあります。それは「構造計画」という作業で、各階平面図の上でバランスに配慮しながら、どこにどんな耐震壁をどれだけ配置するか等を検討する作業です。この作業は、平面図を作成する時点で、構造設計者と協議の上で行われることが理想ですが、必ずしも理想どおりには行きません。意匠設計者は建築主と何度か打合せを繰り返して最終平面図に到達するわけですが、耐震壁の配置についてはその過程で決定される場合も少なくありません。この場合は、結果的に意匠設計者が構造計画の一部を担当したことになります。 構造設計の成果のうち、直接使用されるのは構造図で、見積りや契約に使用されるほか、着工後は構造躯体の施工のために重要な役割を果たします。また、着工前の建築確認申請では構造計算書と構造図の提出が求められます。確認申請書のうち構造躯体に関することは、役所の建築指導課の構造担当者が計算書と構造図を検討し、なにか問題があれば構造設計者を呼び適切な指導を行います。この様に構造図の役割は非常に多角的で、構造設計者の意図を具現化するためには欠くことができません。

 上記の構造計画と構造計算及び構造図作成の三つの作業を総称して構造設計といい、建物を地震や台風等の外力から守るために重要な役割を担っています。

 ところで、木造住宅を設計する場合いわゆる「構造設計」が行なわれるのでしょうか。昭和62年に公布・施行された改正建築基準法により、準防火地域でも木造3階建て住宅が建てられるようになり、これを受けて財団法人日本住宅・木材技術センターは翌年3月「3階建て木造住宅の構造設計と防火設計の手引き」を発刊しました。その手引きのなかで構造計算の標準的な手順が示されてから、ごく少数の構造設計者が木造を手がけるようになりました。その後、木造3階建てを注文する建築主が増えてきたことと、パソコンの計算ソフトが開発され「業務」として成り立つようになったことで、木造住宅を手掛ける構造設計者が増えてきました。

 木造住宅の主流である2階建ての場合はどうでしょうか。この場合は、法令で定めた「壁量計算」で対応しているというのが実情です。壁量計算とは、各階の床面積に応じて梁間・桁行の両方向に配置すべき「有効な耐震壁の長さ」を計算するという簡単な耐震設計法で、軸組構法による2階建て木造住宅の耐震設計はすべてこの方法によるといっても過言ではありません。ただ、ここで注意すべきことは、壁量計算は構造計算の一部であって、構造計算の代役は勤まるかもしれませんが、計算前に行う構造計画と計算の結果を示す構造図が伴わなければ、構造設計が行われたということにはなりません。
 平成7年の兵庫県南部地震では多数の軸組構法住宅が倒壊しました。倒壊した住宅の多くは昭和56年以前に建てられた「既存不適格住宅」で、筋かいを入れた壁が少なかったためといわれています。しかし、昭和56年以降に建てられた「既存適格住宅」でも倒壊した例があったので、原因は他にもある筈です。私は倒壊の原因として「耐震壁の偏り」と「接合部の弱さ」の二つのことを採りあげたいと思います。

 木造軸組構法は平面計画が自由であることがメリットですが、このことが耐震的にはデメリットになる場合が少なくありません。新しく家を建てる場合、一般に建築主は構造のことは特に考えないままに希望の間取図をつくります。設計事務所または工務店の意匠設計者はその間取図に沿って実施図面を作成します。間取図を実施図面にする過程で、耐震壁の偏りが大き過ぎる場合は、そのことを建築主に充分説明して了解を得た上、間取図を訂正するという配慮が必要です。当初の間取図が耐震的に釣合のよいものであればよいのですが、そうでない場合には偏りを少なくする努力をしなければなりません。そしてこのことは、設計者がいかに努力しても建築主の理解と協力がなければよい結果は得られません。「耐震壁の偏り」が主たる原因で倒壊したとすれば、それは構造計画を怠ったためというべきでしょう。

 木造住宅の構造図は部材の配置やサイズを示す基礎伏図・梁伏図・小屋伏図等で土台と柱、柱と胴差等、部材と部材の接合に関することは図面にはあらわさず、曖昧なままに処理されてきました。平成12年の建築基準法の改正にともない、建設省告示で「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」で接合部のあり様を規定するまで、接合部のことは建築基準法関係法令でも何ら具体的な規定はありませんでした。

 一方、住宅金融公庫は早くから、筋かい端部の接合や筋かい端部が取り付く柱と横架材の仕口に金物を使用するよう共通仕様書で規定し、融資住宅の耐震性の向上に前向きに取り組んできました。地震や台風に強い家を造ろうとすると、行き着くところは筋かいと筋かい端部の接合部です。共通仕様書を見ていると接合部をしっかりしたものにしなければ丈夫な家は造れないという思いが伝わってきます。

 公庫の共通仕様書をお手本にしながら公庫以上の耐震性を目指してTIP構法を開発した私は、平成3年の秋に第1号住宅を発表しました。それ以来いつも、筋かいの入れ方は勿論、筋かい端部の接合や柱と横架材の接合の詳細が、建築主にも現場施工者にも一目でわかる様な構造図を作成してまいりました。構造図があれば現場施工者は工事がし易く、現場管理者は品質管理が徹底するのでその効果は非常に大きいと思います。

 一軒の住宅には多数の接合部がありますが、筋かいの端部等主要な接合部を構造図で明確に示し、契約書のなかにその構造図を入れて契約を交わすことは極めて大切なことです。構造図なしで契約を交わすようなことになれば、接合部の扱いは現場施工者の判断で決められることになり、結果として建築主が期待していたレベルの耐震性が確保されない事態が生じる恐れがあります。「接合部の弱さ」が主たる原因で倒壊したとすれば、それは構造図なしで契約を交わしたためというべきでしょう。

 

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